会社役員の場合は、確定申告が必要なのでしょうか。
会社役員なのだから、サラリーマンとは税金の扱いが異なるように思いますよね。
そこで今回は、会社役員の確定申告について説明しましょう。
会社役員の確定申告|確定申告が必要な場合
役員報酬(役員給与)の所得税法上の取扱い
◆会社役員の役員報酬もサラリーマンの給料も税務上は同じ扱い
会社からもらう役員報酬も、所得税法では給与収入として扱われます。サラリーマンが会社からもらう給料と全く同じ扱いです。
したがって、役員報酬による所得は、給与所得となります。
会社役員であろうが、サラリーマンであろうが、給与収入が同じであれば、所得税額も全く同じです。
◆会社側は、会社役員の役員報酬とサラリーマンの給料の扱いは異なる
ただし、会社側については、役員がもらう役員報酬(役員給与)とサラリーマンがもらう給料とは税務上の扱いは異なっています。たとえば、従業員給与は、原則としてい必要経費(損金)になります。
しかし、役員報酬の場合、必要経費になるのは、定期同額給与や事前届出役員賞与に限られています。
不当に高額な役員報酬は必要経費(損金)にはなりませんし、事前届出のない役員賞与も1円も必要経費(損金)になりません。
途中から増減させたり、毎月変動させたりすれば、一部が損金不算入になってしまいます。
このように、会社経営者が受け取る役員報酬(役員給与)と、従業員が受け取る給料手当とは、同じ給与所得といっても税務上、大きな違いがあるのです。
給与収入が2000万円超の会社役員
1ヶ所だけから給与の支払を受けている給与所得者で、次の条件のすべてに該当する場合には、原則として確定申告は必要ありません。1 | 給与収入が2,000万円以下 |
2 | 年末調整を受けている |
3 | 給与所得及び退職所得以外の所得金額の合計額が20万円以下(同族会社との取引を除く) |
1 | 給与収入が2000万円を超えている |
2 | 年末調整を受けていない |
3 | 給与所得及び退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超えている |
複数会社を経営する会社役員
複数会社を経営し、各社から役員報酬の支払を受けている会社役員は、原則として確定申告が必要です。主の会社では、税額表甲欄の適用を受けていますが、ほかの各社から支払うを受ける役員報酬は、税額表乙欄が適用されているはずです。
給与収入だけの場合であっても、複数の会社から役員報酬を受けている場合には、確定申告をして所得税を精算する必要があるのです。
ただし、年末調整されていない給与収入とその他の所得金額との合計額が20万円以下であれば、確定申告する必要はありません。
20万円以下でも同族会社との取引がある会社役員
繰り返しますが、1ヶ所だけから給与の支払を受けている給与所得者で、給与収入が2000万円以下で、かつ、年末調整を受けている人については、副業の所得金額が20万円以下の場合には、確定申告する必要がない特例があります。いわゆる「20万円ルール」と呼ばれるものです。
しかし、この特例には例外があります。
それば、会社役員が同族会社との取引を行った場合です。
たとえば、
・同族会社の役員が、その同族会社へ貸し付けている貸付金の利子を受け取った場合
・同族会社の役員が、個人所有の建物を同族会社へ賃貸しその同族会社から家賃を受け取った場合
・同族会社の役員が、個人所有の車両などの使用料をその同族会社から受け取った場合
などがよくあります。
これらのように、会社役員とその同族会社との取引については、所得金額がたとえ年間20万円以下であっても、確定申告をしなくてはならないのです。
うっかりすると、「20万円ルール」が当然適用されるとと勘違いしてしまいます。
これは、間違えやすい点ですので、注意しましょう。
会社役員の確定申告|確定申告をすると有利な場合
確定申告が不要な会社役員でも確定申告すると有利なことがある
上記で説明しましたように、会社役員でも確定申告の必要がない人は多くいます。しかし、確定申告の必要はなくても、確定申告をすれば、所得税の還付を受けられるなど、有利になることがあります。
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除
会社役員が、住宅ローン等を利用して、マイホームの新築や購入又は増改築等をし、一定の要件を満たす場合には、住宅ローン控除を受けることができます。住宅ローン等の年末残高から計算した金額の税額控除を受けることができます。
この住宅ローン控除は、初年度については、所得税の確定申告をしないと、その適用を受けることができません。
住宅ローン控除の還付額は、通常10万円を超えることが多いため、確定申告の義務がない会社役員でも、確定申告をして所得税の還付を受けましょう。
なお、2年目以降は、この住宅ローン控除は、会社の年末調整で適用を受けることができます。
◆住宅ローン控除の適用条件
住宅ローン控除の適用を受けるためには、次のすべての要件を満たす人に限られます。(1)新築又は取得の日から6か月以内に引っ越して居住の用に供し、その年の12月31日まで引き続いて住んでいること。 (2)住宅ローン控除を受ける年分の合計所得金額が、3000万円以下であること。 (3)新築又は取得をした住宅の床面積が50㎡以上であり、床面積の1/2以上の部分に専ら自分が住んでいること。 (4)返済期間が10年以上の住宅ローン等であること。 (5)居住の用に供した年とその前後の2年ずつの5年間に、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例などの特例の適用を受けていないこと。 |
◆住宅ローン控除の控除期間及び控除額
【控除期間】居住の用に供した年 | 控除期間 |
平成26年1月1日から令和元年9月30日まで | 10年 |
令和元年10月1日から令和2年12月31日まで | 10年または13年 |
令和3年1月1日から令和3年12月31日まで | 10年 |
【控除額】
控除期間 | 控除額 |
10年の場合 | 年末残高等×1% |
13年の場合 | 【1~10年目】年末残高等×1% 【11~13年目】次のいずれか少ない額が控除限度額 ・年末残高等〔上限4,000万円〕×1% ・(住宅取得等対価の額-消費税額〔上限4,000万円〕)×2%÷3 |
令和3年1月1日から令和3年12月31日まで | 10年 |
ただし、住宅の取得価の額が、住宅ローン等の年末残高の合計額よりも少ないときは、住宅ローン等の年末残高の1%ではなく、その取得対価の額の1%が控除額になります。
→ 確定申告で住宅ローン控除|概要、適用条件、手続き、必要書類など
医療費控除を受ける場合
その年の1月1日から12月31日までの間に自分や家族のために医療費を支払った場合で、その医療費が一定金額を超える場合には、所得控除を受けることができます。それが「医療費控除」です。
医療費控除は、年末調整でその適用を受けることができません。
したがって、医療費控除を受けることができる場合には、所得税の確定申告をして所得控除を受けることになります。
◆医療費控除の金額
医療費控除の金額は、次の計算によります。・ (実際に支払った医療費の合計額-保険金などで補填される金額)-※10万円
※その年の総所得金額等が200万円未満の人は、10万円の代わりい、総所得金額等×5%の金額
→ 確定申告の医療費控除|条件、医療費に該当する?還付額は?やり方
◆セルフメディケーション税制
平成29年1月1日から平成33年12月31日までの間に、自分や家族の特定一般用医薬品等購入費を支払った場合で、一定の健康診査や予防接種などを行い、その年中の特定一般用医薬品等購入費の合計額のうち、12,000円を超える部分の金額について所得控除を受けられる「セルフメディケーション税制」(特定一般用医薬品等購入費を支払った場合の医療費控除の特例)が創設されました。これは、通常の医療費控除との選択制ですので、どちらか一方のみの適用になります。
「セルフメディケーション税制」による所得控除額の限度額は、88,000円で、特定一般用医薬品等購入費から保険金などで補填される金額を控除します。
→ セルフメディケーション税制(新医療費控除)|概要、対象薬品、申請方法・申告方法など
ふるさと納税などの寄附金控除を受ける場合
国や地方公共団体、特定の公共法人などに寄附をした場合には、所得税の確定申告を行うことで、所得税の還付を受けることができます。これを「寄附金控除」といいます。
寄附金控除も、年末調整では適用を受けることができませんので、確定申告が必要です。
返礼品で人気の「ふるさと納税」をした場合も、寄附金控除の規定により所得税・住民税の還付又は減額を行えます。
→ 確定申告でふるさと納税を寄附金控除|書き方・やり方と必要書類、還付等のしくみ
雑損控除を受ける場合
災害や盗難などで損害を受けた場合には、一定の金額の所得控除を受けることができます。これを「雑損控除」といいます。
雑損控除も、医療費控除や寄附金控除と同様に、年末調整ではその適用を受けることができませんので、確定申告が必要です。
株式等の譲渡所得等の赤字を翌年以降に繰越す場合
源泉徴収ありの特定口座において行った株式の売却益や株式配当などは、確定申告の義務はありません。その特定口座のある証券会社等が所得税や住民税の計算を行い、源泉徴収をして税務署に納付するからです。
ただし、特定口座による売却で損が出た場合には、確定申告をすることにより、その損を翌年以降に繰り越すことができます。
→ 株式の譲渡損失(売却損)が出た場合の確定申告|税金だけで判断するな!
会社役員の確定申告|会社と役員の取引の注意点
役員賞与とされる場合
次に該当する場合には、それぞれの金額が役員が得た経済的利益とされ、役員給与として役員個人に税金がかかります。No. | 区分 | 課税される金額 |
1 | 会社の資産を役員に無償で贈与した場合 | その贈与した資産の時価 |
2 | 会社の資産を役員に低い価額で売却した場合 | その売却資産の時価と売却金額との差額 |
3 | 役員の所有していた資産を会社が高額で購入した場合 | その購入価額とその資産の時価との差額 |
4 | 会社が役員に対して有する債権を放棄又は免除した場合 | 放棄や免除した債権額 |
5 | 役員の債務を会社が引き受けた場合 | 引き受けた債務額 |
6 | 会社が役員にサービスを無償又は低い対価で提供した場合 | そのサービスの通常金額と実際に収入した対価の額との差額 |
7 | 役員に対して機密費,接待費,交際費,旅費等の名目で支給した金額のうち,会社の業務のために使用したことが明らかでないもの(渡切り交際費) | その支給した金額 |
8 | 役員の個人的費用を会社が負担した場合 | 会社が負担した額 |
9 | 役員の負担すべき社交団体の入会金や経常会費その他の費用を会社が負担した場合 | 会社が支払った額 |
10 | 役員を被保険者及び保険金受取人とする生命保険料を会社が支払った場合: |
役員が会社への貸付金について無利息の場合
会社が役員から借入れをした場合は、無利息であったり、通常の利息よりも低利率な場合でも、利息の不足額については、原則として課税関係は生じません会社が役員の土地の上に建物を建てた場合
★原則として、借地権の問題が発生する
会社が役員から土地を借りて建物を建てた場合には、借地権の問題が生じます。第三者との取引では,土地を借りる場合,借地権相当額の権利金を支払いますが、会社が役員から土地を借りるときは,権利金を支払わないのが通常です。
その場合は、権利金の支払いを免除されたと考えられ、会社が権利金相当額の贈与を受けたこととして扱われ、その受贈益に対して税金がかかります。
また、通常の権利金より少ない金額しか支払わなかった場合は,通常の権利金との差額が受贈益となります。
★借地権の問題が発生しない場合
ただし、権利金を支払わなかった場合でも,次のいずれかの方法をとった場合は,権利金相当額の受贈益は発生しないこととされています。(1)相当の地代を払う場合
権利金を支払わなくても、相当の地代を支払えば、権利金相当額の受贈益は発生しないこととされます。
なお、「相当の地代」とは,貸借した土地の時価の6%の地代(年額)をいいます。
(2)「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出する
権利金の支払や相当の地代の支払がないときでも,借地契約で立退料がゼロである旨を定めて、税務署に「土地の無償返還に関する届出書」を提出すれば、権利金の支払がなくても、権利金相当額の受贈益は生じません。
まとめ
今回は、会社役員の確定申告について説明しました。会社役員の場合は、サラリーマンとは異なる取り扱いになる場合があります。
上記の記事を参考に、間違えのない確定申告をしてください。
【投稿者:税理士 米津晋次】