勤務先から退職金をもらったときの税金はどうやって計算されるのかをご存知の方は少ないと思います。
また、退職金は多額なこともありますから、多くの税金が引かれるのではないか、確定申告が必要なのではないか、など疑問点もあります。
そこで今回は、退職金に対する税金について説明しましょう。
退職金の税金
退職金は、ふつう永年の勤務の成果として一時金を受け取るものです。退職金には、それを得るための必要経費はありませんので、そのまま課税すると多額の税負担になってしまいます。
また、これをほかの所得と合計して課税(総合課税)すると、同年中の他の所得にも高い累進税率が適用されて全体的な税負担も上昇することになります。
しかし、退職金は老後の生活資金となるものであり、あまり高額の税金をかけることは適切でありません。
そこで退職金に対する税金は、ほかの所得とは区分して計算(分離課税)し、所得税・住民税があまりかからないようになっています。
退職所得の計算
退職所得の金額は、次のように計算します。・(退職金収入-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額
退職所得控除額の計算
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数(最低80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
退職所得控除額は、いわば、退職金の非課税枠です。
まず、誰でも最低80万円の退職所得控除額があるということです。
そして、勤続20年までは1年あたり40万円の退職所得控除額になります。
勤続20年を超えると、その超えた年については、1年あたり70万円の退職所得控除額へ金額が増額になります。
退職金の非課税枠である退職所得控除額以下の退職金収入であれば、税金はかからないことになります。
退職所得控除額の計算例
勤続年数が10年2ヶ月の人の場合の退職所得控除額
・勤続年数は11年になります。(端数の2ヶ月は1年に切上げ)・40万円×11年(勤続年数)=440万円
勤続年数が30年の人の場合の退職所得控除額
800万円(40万円×20年)+70万円×(勤続年数-20年)=800万円+70万円×10年
=1,500万円
退職所得控除額の計算の例外(障害者になったことによる退職)
障害者になったことが直接の原因で退職した場合の退職所得控除額は、上記の方法により計算した額に、100万円を加えた金額になります。退職金に対する所得税の計算
退職金に対する所得税額の計算方法
サラリーマンの給与所得や商売をしている人の事業所得、不動産賃貸をしている不動産所得などは、総合課税といって、すべての所得を合計して所得税を計算します。しかし、退職所得は原則として、他の所得と分離して所得税額を計算します。(「分離課税」といいます)
退職金に対する源泉徴収
役員又は使用人に退職金を支払うときには、所得税(復興特別所得税を含む)を源泉徴収して、原則として、翌月の10日までに税務署に納めなければなりません。ただし、死亡退職による退職金は、源泉徴収は必要ありません。
退職金に対する源泉徴収のしかたは、退職する人から「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けている場合と受けていない場合とで異なります。
「退職所得の受給に関する申告書」
「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けている場合
「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けている場合には、退職金に対する源泉徴収税額は次のように計算します。(1)「退職所得控除額」を計算します。
※退職所得控除額は、上で説明したとおりです。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数(最低80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
(2)課税退職所得金額を計算します。
課税退職所得金額=(退職金収入-退職所得控除額)×1/2(1,000円未満の端数切捨て)
ただし、
(1)役員等としての勤続年数が5年以下の場合は、「×1/2」はしません。
※役員等とは、法人の役員、国会議員及・地方公共団体の議員、公務員などをいいます。
天下りであっちの団体の役員を数年やって退職金をもらい、またこっちの団体へ移って役員を数年やって退職金をもらい・・・という場合に対する課税強化ですね。平成25年からこの例外規定ができました。
(2)役員等以外の勤続年数が5年以下である方が令和4年1月以後に支払を受けるべき退職金のうち、その役員等以外の勤続年数に対応する退職金として支払を受けるものについては、1 150万円と2 退職金の額から300万円に退職所得控除額を加算した金額を差し引いた残額との合計額が課税退職所得金額となります(退職金の額から退職所得控除額を差し引いた残額が300万円以下の場合は、その残額に1/2を掛けた金額が課税退職所得金額となります。)。
なお、「退職所得の受給に関する申告書」を提出した人については、原則として確定申告は必要ありません。
(3)源泉徴収する税額を計算します。
「退職所得の源泉徴収税額の速算表」に課税退職所得金額をあてはめて源泉徴収する所得税額を計算します。
(計算例)退職金額が2,300万円、勤続年数が29年2か月の人の場合
・勤続年数:30年(1年未満の端数切上げ)
・退職所得控除額:
800万円+70万円×(勤続年数30年-20年)=1,500万円
・課税退職所得金額:
退職金収入2,300万円-退職所得控除額1,500万円)×1/2=400万円
・源泉所得税額:
課税退職所得金額400万円×税率20%-控除額427,500円×1.021
=380,322.5円 → 380,322円(円未満端数切捨て)
「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けていない場合
「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けていない場合には、退職金に対する源泉徴収税額は次のように計算します。・退職金額×税率20.42%
(計算例)退職金額が800万円の場合
退職金収入800万円×20.42%=1,633,600円
なお、「退職所得の受給に関する申告書」の提出をしなかった人については、確定申告を行うことにより所得税額の精算をします。
【参考】→ 退職手当等に対する源泉徴収(国税庁)へ
退職金に対する住民税の計算
退職金に対する住民税額の計算方法
退職所得は、原則として所得税と同じように、他の所得と分離して住民税額を計算し、退職金額からその住民税額を差し引いて市町村に納付することとされています。(1)「退職所得控除額」を計算します。
※退職所得控除額は、上で説明しました。
(2)課税退職所得金額を計算します。
課税退職所得金額は、所得税の「「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けている場合」の計算と同じです。
課税退職金額=(退職金額-退職所得控除額)×1/2(1,000円未満の端数切捨て)
(3)控除する住民税額を計算します。
・市民税額=退職所得の金額×税率(6%) (100円未満切捨)
・県民税額=退職所得の金額×税率(4%) (100円未満切捨)
・控除する住民税額=市民税額+県民税額
退職所得の市民税・県民税の特別徴収税額早見表
次の早見表で、平成25年1月1日以後に支払われる退職手当等についての税額計算の結果を確認できますので、参考としてご利用ください(早見表の退職所得控除後の退職手当等の金額は、2分の1を乗じる前の金額です。)。→ 退職所得の市民税・県民税の特別徴収税額早見表(名古屋市。PDF形式)へ
なお、勤続年数が5年以下の役員等に対して支払われる退職手当等の場合や、役員等以外で勤続年数が5年以下の方のうち退職所得控除後の退職手当等の金額が300万円を超える場合については、早見表と特別徴収税額が異なりますので、上記計算方法を参考に計算してください。
退職金に対する住民税額の納付方法など
退職手当等の支払者は、特別徴収した住民税額を市町村に徴収した月の翌月10日までに納付します。なお、納付書は、毎月の住民税を納付する納付書の「退職所得分」の欄に記入して、毎月納付分と合わせて納付します。
退職所得に対する住民税を特別徴収した場合は、「市民税 県民税納入申告書」を、退職手当を支払った月の翌月の10日までに市町村へ提出する必要があります。
その他の手続き
退職金を支払った場合には、「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」を本人へ交付するとともに、税務署と市町村へも提出します。税務署へ「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」を提出しなければならない方は、法人の役員に対して退職金の支払をした場合です。
市町村へは、退職金を受け取ったすべての人について「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」を提出してください。
まとめ
退職金に対する所得税・住民税について説明してきました。 退職金に対する税金は、かなり優遇されていますね。退職金は普通何度ももらうものではありませんが、退職後の生活設計をするためには、知っておくと便利ですね。
【投稿者:税理士 米津晋次】
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