確定申告の事業所得や不動産所得、雑所得の計算で、すべての人が悩むのが「「どこまで必要経費として認められるのだろうか」ということです。
そこで今回は、確定申告における必要経費について説明しましょう。
確定申告|必要経費の範囲
必要経費として認められるもの
事業所得や不動産所得、雑所得の金額を計算する際に、必要経費として認められる金額は、次の金額です。(1)総収入金額に対応する必要経費
(2)その年に期間対応する必要経費
◆総収入金額に対応する必要経費
総収入金額に対応する必要経費とは、総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額をいいます。簡単に言えば、仕入や外注費といったものです。
ただし、仕入のうち、年末までに売れていないもの(在庫)の場合には、必要経費にはなりませんし、まだ売上請求していない仕事に対応する外注費(仕掛品)もその年の必要経費にはなりません。
それでは、これらの必要経費にならない在庫は、いつの必要経費になるのかというと、その商品が売れた年、売上請求した年の売上原価として必要経費になるのです。
◆その年に期間対応する必要経費
その年に期間対応する必要経費とは、その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額をいいます。わかりやすい例としては、店舗や事務所の家賃や水道光熱費、電話代です。
確定申告|いつの必要経費にするのか(算入時期)
必要経費にできるのは、債務の確定しているもの
その年に必要経費として認められる金額は、原則として、その年末において債務の確定した金額です。たとえ、その年に支払っていなくても、その年に債務の確定しているものは、その年の必要経費になります。
この考え方を「債務確定主義」といいます。
「債務の確定している」とは
「債務が確定している」とは、次の3要件すべてを満たしたものをいいます。1 | その年の12月31日までに債務が成立していること |
2 | その年の12月31日までにその債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること |
3 | その年の12月31日までに金額が合理的に算定できること |
具体例
◆債務の確定しているものの具体例
たとえば、次のものは、12月末までに支払っていなくても、その年の必要経費として認められます。・掛けで仕入れた商品代(翌月末などの支払になる) ・固定電話代、携帯電話代、スマホ電話代(通常翌月末に引き落としになる。) ・クレジットカードで支払ったもの(口座からの引き落としは翌月や翌々月になる) |
◆債務の確定していないものの具体例
逆に、債務として確定していないため、その年の必要経費とならないものの例としては、次のものがあります。・翌年に納品される商品代の前払い代金 ・翌年分の損害保険料、火災保険料 ・翌年分の利息 ・翌年分のレンタル代、リース代 |
債務が確定しているものの例外
◆売上原価を見積りによる場合
売上高と売上原価には、明確な対応関係があります。したがって、もし売上原価となるべき費用の額が12月31日までに確定していない場合であっても、売上原価の見積額を必要経費とすることが認められます。
今年売上計上をするが、それに対応する売上原価が確定してないので翌年に計上した場合には、その年の売上と売上原価が対応しなくなってしまうからです。
◆減価償却費
固定資産を廃棄した場合において、固定資産の取得価額を必要経費に計上する時期も、債務確定主義の原則によれば、固定資産の除却(廃棄)時点ということになります。しかし、廃棄する月までの減価償却費の必要経費が認められています。
◆損害賠償金
業務の遂行に関連して他の者に与えた損害に対して賠償をする場合、その年12月31日までにその損害賠償金額が確定していないときであっても、12月31日までに損害賠償金額として相手方に申し出た金額は、その年分の必要経費として認められます。◆短期前払費用
前払費用とは、一定の契約により継続的にサービスの提供を受けるために支出した費用で、その事業年度終了時においてまだ提供を受けていないサービスに対するものをいいます。この前払費用は、いくら支払いが終わっていても、その支払った年の必要経費にはなりません。サービスを受けた年の必要経費になります。
しかし、例外なものもあります。短期前払費用です。
短期前払費用とは、前払費用のうち、支払った日から1年以内に提供を受けるサービスに係る費用をいいます。
それを支払った場合、その支払った金額を継続してその年の必要経費に計上しているときは、支払時点で必要経費にすることが認められます。
ただし、借入金を預金等に運用するときのその借入金にかかる支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、必要経費の計上は認められません。
また、毎月金額が変わる、サービス内容が一定でない場合も短期前払費用に該当しません。
短期前払費用の具体例としては、次のものがあります。
・事務所や店舗の家賃や地代、駐車場代の翌月分や年払い・半年払い ・リース料年払い ・年払い損害保険料 ・年払い保守料 ・年会費 |
◆事業を廃止した年分の事業税
事業を廃止した年分の所得について課税される個人事業税は、翌年に支払いますので、更正の請求の手続きを取って必要経費に算入するのが原則です。しかし、更正の請求の手続きをするのは大変です。
そこで、事業を廃止した年に、次の算式によって計算した個人事業税の課税見込み額をその廃止した年分の必要経費に算入することが認められています。
そうすれば、更正の請求はしなくても済みます。
・ (A±B)R/(1+R)
A:個人事業税の課税見込み額を控除する前の当該事業に係る廃止年分の所得金額
B:個人事業税の課税標準の計算上Aに加算又は減算する金額
R:個人事業税率(通常5%)
普通に個人事業税を計算すると、事業税を引く前の所得→事業税計算し所得から事業税を引く→引いた後の所得から事業税を計算すると事業税の金額が変わる→所得金額の計算のやり直し→事業税の計算→・・・と無限ループになっていつまでも個人事業税の金額が決まりません。
そこで、上記のような計算方法になっているのです。
具体的な計算例を紹介します。
【前提】
・青色申告特別控除後の所得金額:435万円
・青色申告特別控除額:65万円
・事業税率:5%
・廃止年の事業期間:6ヶ月
【事業廃止年分の個人事業税見込み額の計算】
・分子:((435万円+65万円)-事業主控除290万円×6月/12月))×0.05=177,500円
・分母:1+0.05=1.05
・個人事業税見込額:177,500円÷1.05=169,047円
必要経費とする場合の注意点
家事上と業務上の共通費用(家事関連費)
個人の業務においては、家事上と業務上の両方関係する費用(「家事関連費」といいます。)となるものがあります。交際費、接待費、地代、家賃、水道光熱費、電話代、自動車関連費などです。
この家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかである部分の金額に限られます。
たとえば、店舗兼用住宅で、店舗の面積が40%を占めていた場合には、家賃のうち必要経費として認められる金額は、家賃の40%ということになります。
事業共用自動車の場合は、その事業での使用割合は明確ではありませんが、走行距離や使用時間などでおおよその事業での使用割合を定めます。
そして、自動車関連費のうち、その事業使用割合分だけが必要経費として認められます。
自動車が1台しかない場合、事業使用割合100%は認められません。少しはプライベートの買い物などで使用する場合が想定されるからです。
家族に支払う経費
いくら必要経費の要件を満たしたからといって、家族に支払った次のような経費は、必要経費として必要経費として認められません。◆家族に支払った地代家賃
生計を一にする配偶者や子、親などの親族に支払った地代家賃は必要経費になりません。したがって、親の所有している建物を、工場や店舗・事務所として使用した場合であっても、その家賃は必要経費にはならないのです。
◆家族に支払った給料
生計を一にする配偶者や子、親などの親族に支払った給料や賞与は、必要経費として認められません。したがって、お子さんに仕事を手伝ってもらって支払ったアルバイト代でも、必要経費にならず、結果としてポケットマネーで支払ったことになります。
ただし、届出済みの青色事業専従者に対する給与・賞与は、例外的に必要経費になります。(届出の範囲内で妥当な金額に限られます)
また、独立して別のところに住んでいる家族に対する給料などは、ほかの従業員に対する給料と同じく、必要経費として認められます。
税金は必要経費になるもの・ならないものがある
業務に関連して支払った税金でも、必要経費として認められるものと必要経費として認められないものがあります。たとえば、所得税や住民税は、必要経費にはなりません。
逆に、個人事業税は必要経費として認められます。
【関連記事】
→・確定申告で経費になる税金・ならない税金|所得税・住民税・事業税等
加算税・延滞税・罰金などは必要経費にならない
提出期限までに申告をしなかったり、税金を納めなかった場合に課されるペナルティ的な加算税や、税金を定められた納付期限までに納められなかった場合に納めなければならない利息に相当する税金である延滞税は、必要経費にはなりません。また、業務中の駐車違反などの交通反則金などの罰金や過料・科料も必要経費にはなりません。
【関連記事】
→・加算税という税金ペナルティを知る|無申告・過少申告・不納付・重加算税
→・延滞税|延滞税とは、延滞税の利率、延滞税を安くする方法
必要経費の具体例
最後に、必要経費として認められる具体例をご紹介しましょう。白色申告で提出する「収支内訳書(一般用)」や青色申告で提出する「損益計算書(一般用)」に表記されている経費の勘定科目別に紹介します。
売上原価
期首商品棚卸高+当年仕入高-期末商品棚卸高租税公課
個人事業税、固定資産税、不動産取得税、自動車税、登録免許税、印紙税荷造運賃
ダンボール箱、緩衝材(発泡スチロール等)、ガムテープ、宅急便代水道光熱費
事業運営に必要な水道料金・電気料金・ガス料金・灯油代旅費交通費
電車賃、バス代、タクシー代、航空運賃、駐車場代、出張宿泊費、高速代(ETC)通信費
固定電話料金、携帯電話料金、切手代、はがき代、ファックス代、インターネット料金広告宣伝費
商品やサービスの広告・宣伝チラシ、新聞広告、看板、試供品、ポスティング費用、インターネット広告代接待交際費
取引先や得意先の接待飲食代、お得意先へのお祝い金・香典・贈答品、取引先とのゴルフ代損害保険料
業務用自動車の自動車保険・自賠責保険、店舗・事務所の火災保険、賠償責任保険修繕費
業務用自動車の修理費、店舗:事務所の改修・修理費、パソコン修理代、エアコン修理代消耗品費
文房具、事務机・イス、電球、印鑑、お茶、ゴミ袋、作業着、10万円未満のパソコン・プリンター減価償却費
自動車や機械、厨房用品、エアコンなど、10万円以上で1年以上使用する固定資産を一定期間にわたって計上する費用。福利厚生費
制服や従業員の親睦や勤労意欲の向上などを目的とする慰安旅行費、レクリエーション費用、お祝い金、お見舞金、従業員健康診断給料賃金
従業員に支払う給与・賞与(青色事業専従者に対するものを除く)外注工賃
外部の業者に業務委託した電気工事費、加工費、デザイン料、ホームページ運営費、システム開発費利子割引料
業務用借入の支払利息や手形の割引料地代家賃
事務所・店舗家賃、駐車場料金、社宅家賃、倉庫使用料、土地使用料貸倒金
売掛金や貸付金などの回収ができなくなった貸倒損失雑費
必要経費で、上記の科目にも属さない、ごみ処理代、クリーニング代、引越費用専従者給与
青色事業専従者に支払う給与・賞与まとめ
今回は、確定申告における必要経費について説明しました。必要経費は税務調査においても厳しいチェックがされるところです。
あとで余分な税金が発生しないように、今回の記事で必要経費について理解していただき、申告書を作成してください。
【投稿者:税理士 米津晋次】