会社が福利厚生として従業員の住む家賃を補助する方法として、
(1)住宅手当を支給する
(2)借上社宅として、家賃の一部のみ徴収する
の2つがあります。
そこで今回は、この2つの家賃補助の方法で、どちらが税金上有利なのかについて説明いたします。
■住宅手当と借上社宅のどちらが税金上有利なのかの結論
どちらの制度が税金上有利なのかは、従業員側で考えるのか、会社側で考えるのかで結論が変わってきます。
従業員にとっては、借上社宅が有利
従業員にとっては、借上社宅の方が次のメリットがあるため有利といえます。・所得税の負担が増えない。
・住民税の負担も増えない。
・社会保険の負担も増えない。
さらに借上社宅の場合は、従業員にとって次のメリットもあります。
・敷金・礼金を負担しなくてもよい。
・原状回復費を負担しなくてもよい。
・火災保険料を負担しなくてもよい。
会社にとっては借上社宅の方がやや負担がふえる
会社にとっては、どちらの制度でも税金上の大きな違いはありません。ただし、税務以外では、次のデメリットや負担が発生します。
・社会保険料の負担増加
・敷金・礼金の負担
・現状回復費の負担
・火災保険料の負担
・社員が退去する場合の空き家のリスク
■住宅手当制度
住宅手当とは?
住宅手当とは、従業員に給与を支払う際に、家賃を補助する目的で手当として給与に上乗せ支給する制度をいいます。たとえば、基本給等の金額が20万円の社員に、住宅手当として1万円を上乗せすれば、支給額は21万円になります。
従業員の税金(住宅手当)
従業員が勤務する会社から家賃補助として住宅手当の支給を受けた場合には、その住宅手当も給与所得なります。給与所得になるということは、所得税、住民税の課税対象になるということです。
住宅手当については、通勤手当のような非課税規定がありません。
したがって、支給された住宅手当の全額について、所得税、住民税がかかることになりますね。
なお、住宅手当も全額社会保険上の報酬に該当しますので、社会保険料が増えることになります。
会社の税金(住宅手当)
会社が社員に、家賃補助の目的のために住宅手当を支給した場合には、給与の扱いとなります。したがって、会社側は、必要経費(損金)になります。
また、会社側には、所得税の源泉徴収の義務がありますが、住宅手当も源泉徴収の対象になります。
住宅手当を加算した給与に対して、一定の所得税を徴収し、税務署に納付します。
住宅手当がない場合と比較して、源泉徴収額も納税額も増えることになりますが、増える分は従業員から徴収しますので、会社負担の税金が増える訳ではありません。
なお、住宅手当が社会保険上の報酬に該当するため、社会保険料が増えます。
社会保険料の半額を会社が負担していますので、会社負担の社会保険料が増えることになります。
住宅手当制度の注意点
住宅手当制度を導入する場合には、当然に従業員間の不公平がないような住宅手当の規定を作らなくてななりません。支給金額をどうするかが一番重要ですが、次のような点も明確にする必要があります。
・支給上限額を設けるのか
・持ち家の従業員に支給するのかどうか
・夫婦とも会社勤務の場合、一人分支給なのか、二人分支給なのか
・住宅手当支給条件に該当しなくなったのに会社に報告をしなかった場合のペナルティー
■借上社宅制度
借上社宅制度とは
会社が福利厚生制度のひとつとして、従業員が住む住宅を会社が社宅として借り上げて、会社が大家さんに家賃を支払う制度を借上社宅制度といいます。家賃のうちいくらを従業員から徴収するかは、会社の自由です。
家賃5万円のうち1万円というように、家賃の一部をその従業員から給与から天引きで徴収する会社が多いです。
中には、全額会社が負担し、従業員から家賃を徴収していない会社もあります。
従業員の税金(社宅)
従業員にとっては、会社が負担した家賃は、いわば給与のようなものです。家賃8万円のうちの5万円を会社に負担してもらえば、5万円の給与をもらったと同じようなものだからです。
ただし、住宅手当のように、全額が給与所得として所得税や住民税が課税される訳ではありません。
一定の計算による最低家賃(下記参照)さえ会社に支払えば、それを超える部分の会社負担額は、非課税になります。
その場合は、給与所得として加算されず、所得税、住民税の課税対象にはならないのです。
<具体例>
会社が大家さんに払う家賃が5万円の社宅を従業員に貸した場合(最低家賃徴収額が1万円の場合)(1)従業員から家賃を徴収せず、無償で貸す場合には、5万円が従業員の給与として課税されます。
(2)従業員から5千円の家賃を受け取る場合には、社宅家賃5万円と徴収額5千円との差額の4万5千円が給与として課税されます。
(3)従業員から1万円の家賃を受け取る場合には、1万円は非課税となる最低家賃徴収額以上ですので、社宅家賃5万円と徴収額1万円との差額の4万は、従業員の給与として課税されません。
なお、社会保険上は、会社負担家賃は現物給与として報酬になりますので、社会保険料が増えることになります。
ただし、現物給与は、お金として支給するよりは、少額とされますので全額が報酬となる訳ではありません。
なお、現物給与を通貨に換算するための基準額として、全国現物給与価額一覧表(厚生労働大臣が定める現物給与の価額)があります。
参照:https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/hoshu/20150511.html
なぜ社宅賃料の税務が納税者有利になっているのか?
このように、社宅賃料の場合の税務の扱いが納税者有利になっているのでしょうか。国が社宅を推奨している訳ではないようです。
国税OBの話によると、この社宅賃料の扱いは、国税職員の職員寮の賃料を前提として作られているからだそうです。
国税職員が入居している社宅の賃料がかなり安いため、納税者である民間企業も同様な扱いにしなければ不公平だと指摘されないようにしているというのです。
納得ですね(笑)。
社宅家賃が非課税になる最低徴収額
会社が負担する社宅家賃のうち、次の最低徴収金額以上を従業員から徴収していれば、その差額は非課税となり従業員の給与所得となりません。非課税となる最低徴収金額は、次の(1)~(3)の合計額です。
(1) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
(2) 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3㎡)
(3) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
ただし、最低徴収金額以下の場合でも、従業員から徴収している家賃が、社宅家賃の50%以上であれば、非課税になり給与として課税されません。
なお、看護師や守衛さんなど、仕事を行う上で勤務場所を離れて住むことが困難な従業員に社宅を貸す場合には、無償で貸与しても給与として課税されない場合があります。
「固定資産税課税標準額」の把握
上記の非課税となる最低徴収金額の計算では、「固定資産税課税標準額」が出ています。自己所有ではない社宅の固定資産税評価額を把握することは、困難な場合が多いです。
所有者でない場合は、市区町村役場で相談しても、断られます。
このような場合は、不動産仲介業者等から大家さんへ「固定資産税の課税標準額」を教えてもらうとよいでしょう。
従業員名義で契約の場合
従業員が自分名義で直接契約している場合の家賃負担は、借上社宅に該当しません。したがって、会社負担家賃は、その従業員の給与として課税されます。
会社の税金(社宅)
会社にとっては、社宅家賃として負担した金額は、全額必要経費(損金)になります。一方、従業員から家賃の一部を徴収した場合には、その徴収した金額は収入(益金)となります。
なお、借上げ社宅制度の会社負担分は、現物給与として社会保険上の報酬に該当するため、社会保険料が増えます。
社会保険料の半額を会社が負担していますので、会社負担の社会保険料が増えることになります。
ただし、現物給与は、お金として支給するよりは、少額とされますので全額が報酬とはなりません。
したがって、従業員の社会保険料の増加額は、住宅手当よりは少なくなりますし、会社の社会保険料負担増加も少しで済みます。
水道光熱費の税金
社宅で入居者が使用した水道、ガス、電気代の扱いはどうすべきでしょうか。原則、水道光熱費は、入居者の負担にすべきです。会社の経費にするのは問題があります。
家賃と一緒に水道光熱費も入居者から徴収をしてください。
ただし、次の2要件を満たす場合には、例外的に全額会社負担でいいことになっています。
・その額が通常利用した場合の料金程度
・各部屋にメーターがなく、入居者別の使用額が計算できない
この例外が設けられている理由も、国税職員寮には、個別メーターがなく、個人から徴収していないことにあるようです。
■まとめ
今回は、福利厚生制度として、住宅手当制度と借上社宅制度の2つの方法で、どちらが税金上有利なのかについて説明いたしました。従業員側から考えると、借上社宅の方が有利です。
ただ、制度を運営するのには、税金面だけで考えるべきではありません。
会社側にとっては、敷金・礼金、火災保険料などの負担や、空き家リスクがありますので、その点なども考慮して、どちらを選択すべきかを検討しましょう。
【投稿者:税理士 米津晋次】