年中途で就職すると、勤務先から前職の源泉徴収票の提出を求められます。
どうして前職の源泉徴収票を求められるのか、よくわからないですね。
前職の源泉徴収票をもらう方法がわからなくて困っている方もみえます。
また、いろいろな事情で前職の源泉徴収票を提出したくないかもしれません。
前職の源泉徴収票を提出しなかったらどうなるか不安かもしれません。
そこで今回は、年末調整でなぜ前職の源泉徴収票が必要なのか、提出したくない場合、提出できない場合はどうすればいいのかについて説明いたします。
目次
前職源泉徴収票の提出が必要|なぜ年末調整で前職源泉徴収票が必要なのか
前職の源泉徴収票が必要な理由
どうして前職の源泉徴収票の提出を今の勤務先が求めるのでしょうか。前の勤務先で働いていたのかをチェックするためでしょうか。
前職の給料を知りたいのでしょうか。
いえ、そうではありません。
年末調整の手続きで、前職の源泉徴収票が必要なのです。
前職の源泉徴収票の提出がないと、年末調整で還付金の計算ができないからなのです。
年末調整とは年間所得税の精算のこと
「年末調整」って聞いたことはあると思います。その「年末調整」とは、会社が従業員それぞれの1年間の適正な所得税を計算し、精算することをいいます。サラリーマンではなく個人事業をしていれば、確定申告をして1年間の所得税の計算を自分でしなければなりません。
しかし、圧倒的に多いサラリーマンがいちいち確定申告していては、確定申告する方も大変ですし、税務署も負担がとても多くなってしまいます。
そこで日本では、サラリーマンについては、勤務先の会社が年間所得税を計算し、精算しなければならない仕組みになっています。
年末調整に必要な金額は、年間給与収入、社会保険料、所得税額
1年間に納めなければならない所得税計算の基になるのは、(1)1年間の給与収入
(2)1年間に徴収された社会保険料
(3)1年間に徴収された所得税額
などです。
年途中で転職した場合は、12月31日現在在職している会社が年末調整をします。
そのためには、その年ほかの会社における給与収入、社会保険料、所得税がわからないと、上記の3つの金額がわかりません。
わからなければ、適正な所得税の計算は不可能なのです。
だから、前職に限らず、その年に勤務した会社の源泉徴収票の提出を新たに就職した会社では求めるのです。
新社会人は、アルバイト分の源泉徴収票の提出を忘れないで
今年の4月から就職した新社会人の人が忘れやすいのは、今年1月から3月までのアルバイト収入です。これも給与収入ですから、そのアルバイトをしていた会社に連絡して、今年分の給与所得の源泉徴収票を発行してもらい、今の勤務先に提出してくださいね。
アルバイト収入の源泉徴収票の提出を忘れると、年末調整で計算した所得税が不足になって、後から税務署から連絡が来ることになります。
今年複数回転職している場合は、すべての会社の源泉徴収票が必要
今年、今の会社に勤務する前に、アルバイトを含め複数の会社で勤務した、という方もいるでしょう。その場合は、前職の源泉徴収票だけでなく、今年給料を1円でももらったすべての会社の源泉徴収票が必要になります。
なぜなら、年末調整は、今年の所得の所得税を精算するものだからです。
少額でも抜けていると、今年の所得が変わり、正しい所得税が計算できないことになります。
前職源泉徴収票のもらい方|前職源泉徴収票はいつ・どこで発行してもらえる?もらい方
前職の源泉徴収票はどこで発行してもらえるか
前職の源泉徴収票は、勤務していた会社に発行してもらいます。前に勤務していた会社の給与担当者に連絡をとって、発行をお願いしてください。
大きな会社でどこへ連絡すればいいのかわからない場合は、「給与計算の担当の方お願いします」と言って担当者へ電話を回してもらいましょう。
通常は、源泉徴収票を郵送してもらえるでしょう。
大会社などでは、WEB上で発行してもらえるしくみになっているところもあります。
その場合は、それを印刷して勤務先に提出しましょう。
前職の源泉徴収票はいつ発行してもらえるか
前職の源泉徴収票は、退職してその会社から最後の給与の支払いがあれば、そのときから発行をお願いできます。しっかりした会社は、発行を依頼しなくても源泉徴収票を発行してくれます。
会社側には、源泉徴収票を発行する義務があるので、たとえ退職して日数が経っていても、源泉徴収票の発行を依頼することができます。
発行してもらった源泉徴収票を紛失してしまったときでも、再度、源泉徴収票の発行をお願いすることができます。
前職の源泉徴収票を紛失した場合は、再発行を請求できるか
繰り返しますが、会社側には、源泉徴収票を発行する義務がありますので、極端なことを言えば何度でも再発行をお願いできます。発行してくれない場合には、会社側に発行義務があることを伝えてください。
それでもどうしても発行してくれない場合には、後で説明する手続きをしてください。
前職の源泉徴収票はいつまでに提出するのか(提出期限)
前職の給与所得の源泉徴収票の提出期限は、現在勤務している会社が指定した年末調整関係書類の期限です。税法の規定上は、翌年1月中に前職の源泉徴収票を提出すれば、年末調整の再計算を受けることができます。
ただ、給与担当者からは、いやな顔をされますね。
もし、前職の源泉徴収票の提出が遅くなってしまいそうで、そんな思いはしたくない、という方は、所得税の確定申告をして、年末調整の対象と提出しなかった前職分の給与を含めた所得に対する所得税の精算をしましょう。
前職の源泉徴収票が会社の提出期限に間に合いそうもない場合
前職の給与所得の源泉徴収票の発行が、会社の年末調整書類の提出期限に間に合いそうもない場合には、あらかじめ給与担当者にその旨伝えてください。そうすると、現在勤務している会社では、所得税の精算(年末調整)を行いません。
翌年1月に提出できるのであれば、会社で再度年末調整をしてもらえます。
間に合わない場合は、最後の給与時にもらえる現在の会社の給与所得の源泉徴収票と、郵送されてくる前職の給与所得の源泉徴収票をもって、3月15日までに税務署で所得税の確定申告をして所得税の精算を行います。
提出する前職の源泉徴収票は原本でなくコピーでもいいのか
現在の勤務先に提出する前職の給与所得の源泉徴収票は、原本でなくてはなりません。コピーを提出してはダメです。
もし、ほかの用途で源泉徴収票が必要な場合は、追加発行を依頼してください。
電子データで源泉徴収票が発行された場合は、原本を提出することができないので、印刷して提出してください。
提出の際に、電子データで発行されている旨を給与担当者に伝えるといいでしょう。
前職の退職所得の源泉徴収票は、提出しなくてもよい
再就職した会社に提出する源泉徴収票は、「給与所得の源泉徴収票」のみです。前の会社で退職金の支給を受けた場合には、「退職所得の源泉徴収票」も発行される場合がありますが、それは会社への提出は不要です。
退職金の税金は別計算で、年末調整に関係がなく不要だからです。
前職源泉徴収票の提出|前職源泉徴収票を提出できない
前職の源泉徴収票を提出したくても提出できない場合があります。そんな場合の対処法をお知らせしましょう。前職の源泉徴収票がない、紛失した
そもそも、前職の給与所得の源泉徴収票の発行を受けていない場合や、発行は受けたが紛失してしまった場合には、前の勤務先へ連絡して、源泉徴収票の発行又は再発行を依頼しましょう。繰り返しますが、会社側には源泉徴収票の発行義務がありますから大丈夫です。
前の勤務先が源泉徴収票を発行してくれない・もらえない
まず、給与の支払をしていれば、法律でその会社には源泉徴収票を発行する義務があります。紛失した場合も、会社は源泉徴収票の再発行をしなければなりません。
いくら、退職時に問題があっても、源泉徴収票を発行する義務があるのです。
応じてもらえないようなら、まず、法律的に源泉徴収票の発行義務があるということを伝えてください。
それでも発行してもらえない場合は、会社の所轄税務署へ相談して、その旨を話してください。
手続き的には、「源泉徴収票の不交付の届出書」を税務署へ提出します。
そうすると、税務署からその会社に源泉徴収票を発行するように指導をしてもらえます。
わからないなら、税務署の窓口に相談に行ってください。税務署員が対応してくれます。
前の勤務先に連絡をとりたくない
前の会社の退職時に揉めて気まずい状態だったなどの理由で、前の会社に連絡をとりたくないという方もみえると思います。いろいろありますからね。電話では、誰が出るかわかりませんから、なかなか源泉徴収票の発行を依頼しづらいと思います。
そんな場合は、手紙で源泉徴収票の発行をお願いしましょう。事務的な依頼文章で構わないと思います。
手紙で依頼しても応答がない場合には、税務署に相談をしてください。
上で説明した「源泉徴収票の不交付の届出書」を税務署に提出するように言われると思います。
そうすると、税務署から前の勤務先に源泉徴収票を発行するように指導をしてもらえます。
前の勤務先が倒産して源泉徴収票の発行は無理
前の勤務先が倒産した場合には、源泉徴収票の発行を会社に依頼することができないですね。さすがにそのような場合は、税務署も一応配慮してくれます。毎月の給与明細書や賞与明細書がすべて揃っていれば、現在の会社へ前の会社が倒産した旨と、その給与明細等を提出することで年末調整を受けることができます。
給与明細等がすべて揃わない場合は、前の会社の顧問税理士や給与計算代行業者がわかれば連絡をとってください。
税理士事務所等が給与明細の写しをもっていることもあります。
また、倒産した会社に破産管財人がいる場合は、そこへ連絡してください。
顧問税理士等がわからない、税理士事務所等では給料明細を保存していなかった、破産管財人がついていない、破産管財人も給与明細がわからないという場合は、どうすればいいのでしょうか、
その場合は、どうしようもありませんので、保存していた給与明細等と給料が振り込まれた通帳で1月分からの金額がわかるものを持って、税務署に相談にいってください。
給料が現金支給の場合は、保存していた給与明細等をもって税務署に相談してください。
そして、税務署の指示にしたがってください。現在の会社への税務署の指導を伝えてください。
前職源泉徴収票の提出|前職源泉徴収票を提出したくない
前職の源泉徴収票を提出したくない理由
ざまざまな事情で、前職の源泉徴収票はもらっているが、今の勤務先に提出したくない、ということもあるようです。たとえば、入社試験に提出した履歴書に記載していない勤務歴があるような場合や、何社もアルバイトをしていたような場合などです。
自分で確定申告をする
上記でも説明しましたが、今の勤務先が前職の源泉徴収票の提出を求めるのは、年末調整で必要だからです。ある事情で前職の源泉徴収票を提出したくない場合には、勤務先に「源泉徴収票の発行が遅くなりそうなので、自分で確定申告します」と伝えてください。
そうすれば、今の勤務先では、所得税の精算(還付金の計算)はしてくれませんが、現在の勤務先において支給・控除された金額の集計が記載された源泉徴収票の発行をしてくれます。
そのままの状況では、適正な所得税の計算がされていないのですから、個人事業者と同じように、原則翌年3月15日までに自分で所得税の確定申告をして所得税の精算をしなければなりません。
その年に勤務した会社のすべての源泉徴収票をもって、税務署か確定申告会場へ行きましょう。
前職源泉徴収票の提出|提出しないとどうなる?
前職の源泉徴収票を提出しないと年末調整で還付なし
年末調整時に前職の源泉徴収票を提出しないと、正しくその年の所得税が計算できません。したがって、年末調整で所得税の還付金を受けることができません。
確定申告する
前職の源泉徴収票を提出しないと、年末調整で正しく所得税計算が終わっていませんので、翌年3月15日までに確定申告をしなくてはなりません。その際には、当然前職の源泉徴収票の数字も申告する必要があります。
もし、前職の源泉徴収票の数字を含まずに確定申告をすると、本来の所得税より少なく所得税が計算される可能性が高いです。
後日、税務署から連絡が来て、追加納税をするだけでなく、延滞金も支払う必要が出てきます。
確定申告しないと?
年末調整を受けず、確定申告もしない場合は、所得税を多く納めている可能性が高いです。
多く納税したからといって、税務署が親切に差額を還付してくれることはありません。
また、確定申告しないことによって、所得税に不足が生じていた場合には、後日、税務署から連絡が来て、追加納税をするだけでなく、延滞金も支払う必要が出てきます。
前職の源泉徴収票に間違い・誤りがあった場合はどうするのか?
年末調整前に前職源泉徴収票の間違いに気づいた場合
年末調整がされる前に、前職の給与所得の源泉徴収票の間違いに気づいた場合には、前職の給与担当者にすぐに連絡し、間違いを伝え、もし指摘どおり間違いだと認めた場合には、源泉徴収票の再発行を依頼してください。退職者分の源泉徴収票の発行は、多くの会社では手計算で作成しています。人間ですから、間違える場合もあるでしょう。
前職の源泉徴収票の発行を受けたら、念のため給与明細書などと確認してみるといいですね。
年末調整前に前職源泉徴収票の間違いに気づいた場合など
現在の会社で年末調整を受けた後に、前職の源泉徴収票の間違い・誤りに気づいた場合には、前職の給与担当者にすぐに連絡し、間違いを伝え、もし指摘どおり間違いだと認めた場合には、源泉徴収票の再発行を依頼してください。年末調整後に、前職の会社から源泉徴収票に間違いがあった旨の連絡と、訂正後の源泉徴収票が送付されてくる場合もあるかもしれません。
どちらにしても、訂正後の前職源泉徴収票を1月中に現在の会社に提出すれば、年末調整の再計算をしてもらうことができます。
1月中に訂正後の前職源泉徴収票を入手したけれども、会社に年末調整の再計算を依頼したくない場合や、2月以降になってから訂正後の前職源泉徴収票を入手した場合は、3月15日までに所得税の確定申告をして、正しい所得税との精算をしなくてはなりません。
現在の会社の源泉徴収票と、前職の訂正後の源泉徴収票により確定申告をするか、それらをもって、臨時的に開設される確定申告会場へ行ってください。
前職源泉徴収票の提出|乙欄の源泉徴収票がある場合
年末調整の対象にできるのは、甲欄の源泉徴収票のみ
前職の給与所得の源泉徴収票の中に、税額表乙欄適用のものがある場合があります。給与所得の源泉徴収票の「乙欄」に○がついているものです。
これは、同時に複数の会社に勤務した場合に、主でなかった勤務先のものだと思います。
なぜなら、甲欄が適用されるのは、扶養控除申告書を提出した会社だけなのですが、同時に複数会社に勤務した場合には、そのうち、扶養控除申告書を提出できるのは、主の勤務先1社だけで、扶養控除申告書の提出がない勤務先では、税額表乙欄適用とするからです。
また、年末調整で年途中で転職した人が、現在の勤務先で年末調整を受ける際に、年末調整対象として提出できる前職の源泉徴収票は、甲欄のものだけと税法で規定されています。
会社側からいえば、前職の源泉徴収票のうち、年末調整の対象に含めていいのは、甲欄のものだけであって、乙欄の源泉徴収票は年末調整の対象としてはいけません。
【参考】所得税法
第百九十条 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合(その居住者がその後その年十二月三十一日までの間に当該支払者以外の者に当該申告書を提出すると見込まれる場合を除く。)において、同号に掲げる所得税の額の合計額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した第二号に掲げる税額に比し過不足があるときは、その超過額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当し、その不足額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収してその徴収の日の属する月の翌月十日までに国に納付しなければならない。
一 その年中にその居住者に対し支払うべきことが確定した給与等(その居住者がその年において他の給与等の支払者を経由して他の給与所得者の扶養控除等申告書を提出したことがある場合には、当該他の給与等の支払者がその年中にその居住者に対し支払うべきことが確定した給与等で政令で定めるものを含む。次号において同じ。)につき第百八十三条第一項(源泉徴収義務)の規定により徴収された又は徴収されるべき所得税の額の合計額
(以下省略)
つまり、
「他の給与所得者の扶養控除等申告書を提出したことがある場合(=甲欄適用)を含む」
なので、乙欄適用の場合の源泉徴収票は、含めないことになります。
前職乙欄適用の源泉徴収票分は確定申告で精算
それでは、年末調整の対象とならなかった乙欄適用がされている給与所得の源泉徴収票分については、どうすればいいのでしょうか。本人が翌年3月15日までに税務署で所得税の確定申告をすることになります。
乙欄の源泉徴収票がある場合には、原則確定申告の義務があるからです。
もし、乙欄適用の源泉徴収票の提出をしてしまった場合には、返却を受けてください。
【参考】
→確定申告が必要な人|サラリーマン、年金収入、退職金、その他の所得
→アルバイト掛け持ちの場合の源泉徴収は?年末調整・確定申告も説明
前職源泉徴収票の提出|前職源泉徴収票の保管場所・マイナンバー
前職の源泉徴収票は、会社で源泉徴収簿と一緒に保管する
従業員が提出してきた前職分の源泉徴収票は、どこが保管するのでしょうか。◆前職の源泉徴収票分を含めて年末調整を行った場合
従業員から前職の給与所得の源泉徴収票の提出を受け、年末調整を行った場合には、その前職分の源泉徴収票は、会社で保管します。具体的には、その年の源泉徴収簿と一緒に保管するのが一般的です。
その年分の扶養控除申告書と一緒に保管してもいいでしょう。
◆前職の源泉徴収票分を含めて年末調整を行わなかった場合
前職分の源泉徴収票の提出を受けても、年末調整をしなかった場合には、会社で保管せずに本人へ返却してください。なぜなら、本人が所得税の確定申告をするのに必要だからです。
前職の源泉徴収票に、マイナンバーの記載がある場合
従業員から提出された前職の給与所得の源泉徴収票には、マイナンバーを記載しないことになっていますが、もし、前職の給与所得の源泉徴収票にマイナンバー(個人番号)の記載がある場合は、マスキングしてマイナンバーが見えない・復元できないようにしてください。まとめ
今回は、年末調整でなぜ前職の源泉徴収票が必要なのか、提出したくない場合はどうすればいいのかについて説明いたしました。もし、前の勤務先が源泉徴収表を発行してくれない場合や、前の勤務先が倒産している場合は、できるだけ早めに税務署に相談に行ってください。
前職の源泉徴収票が提出できない、提出したくない場合は、ご紹介した方法で税法上も問題ないように必ず手続きをしてくださいね。
【投稿者:税理士 米津晋次】