平成28年分の所得税確定申告で使用する減価償却費の計算から税制改正になっています。
建物付属設備と構築物については、減価償却費の計算方法を定額法へ一本化する、というものです。
そこで今回は、この減価償却費の計算方法の税制改正について説明します。
目次
建物付属設備・構築物は定額法へ一本化|平成28年度税制改正
建物付属設備・構築物の減価償却に関する改正内容
平成28年度税制改正により、平成28年度4月1日以後に取得をする建物付属設備や構築物の償却限度額の算定方法について、定率法が廃止され、償却方法が定額法に一本化されました。
この改正は、法人(法人税)だけでなく、個人(所得税)も同じです。
したがって、平成28年分所得税確定申告から注意しなくてはいけませんね。
建物付属設備・構築物の減価償却方法が改正になった理由
◆形式的な改正理由
平成19年度と平成23年度の二回の税制改正により計算方法が大きく改正されました。
特に定率法による減価償却費の計算方法は非常に複雑になってしまいました。
その結果、一般の納税者が自分で減価償却費の計算を正しく行うことが困難になってしまいました。
今回の改正は、このように定率法の計算が複雑なことが理由だとされています。
◆本当の改正理由
じゃ、機械装置や車両運搬具、工具器具備品は、なぜ従来どおり定率法の選択が可能なのでしょうか。
定率法の計算が難しくなったという理由なら、ほかの資産も定額法に統一化になるはずですよね。
本音は、定額法にすることによって、購入当初の減価償却費を減らして利益を増やして、結果的に税収を増やそうという意図だと思います。
平成10年4月1日以降取得の建物が定額法に一本化された改正の目的は、税収の確保でした。
そのときと全く同じ理由が、今回の改正の本当の理由でしょう。
購入当初の定率法と定額法の減価償却費の差異
具体例で、定率法と定額法のどちらの減価償却費の計算方法を選択するかによって、購入当初の減価償却費がどれだけ差が出るのかを確認してみましょう。
取得価額100万円、耐用年数10年の資産を1月に取得した場合について計算してみます。
◆定率法による減価償却費
・購入初年度:取得価額100万円×償却率0.200=20万円
・2年目 :(取得価額100万円-初年度減価償却費20万円)×償却率0.200=16万円
◆定額法による減価償却費
・購入初年度:取得価額100万円×償却率0.100=10万円
・2年目 :取得価額100万円×償却率0.100=10万円
◆定率法と定額法による減価償却費の差異
・購入初年度減価償却費
定率法20万円:定額法10万円 →差額10万円(定率法の方が多い)
・2年目減価償却費
定率法16万円:定額法10万円 →差額6万円(定率法の方が多い)
建物付属設備・構築物は定額法へ一本化|建物付属設備・構築物とは
建物付属設備とは(定義)
建物付属設備とは、電気設備・ガス設備・給排水設備・衛生設備・空調設備(エアコン)や昇降機設備(エレベーター)のように建物と一体となって機能を発揮する設備を指します。
◆建物付属設備の耐用年数(主なもの)
建物付属設備の耐用年数は、次のようになっています。
・アーケード・日よけ設備
主として金属製のもの15年、その他もの:8年
・店舗簡易装備:3年
・電気設備(照明設備を含む。)
蓄電池電源設備:6年、その他のもの:15年
・給排水・衛生設備、ガス設備:15年
構築物とは(定義)
構築物とは舗装道路、へいなど、土地の上に定着した建造物、土木設備、工作物のうち、建物や建物付属設備以外のものをいいます。
◆構築物の耐用年数(主なもの)
・広告用のもの
金属造のもの:20年、その他のもの:10年
・舗装道路及び舗装路面
コンクリート敷、ブロック敷、れんが敷又は石敷のもの:15年、アスファルト敷又は木れんが敷のもの:10年
・へい、フェンス
石造のもの:35年、土造のもの:20年、金属造のもの:10年、合成樹脂造のもの:10年、木造のもの:10年
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建物付属設備・構築物は定額法へ一本化|減価償却とは
資産は時の経過等によって価値が減っていく
事業などの業務のために用いられる建物、建物附属設備、機械装置、器具備品、車両運搬具などの資産は、一般的には時の経過や使用によってその価値が減っていきます。
◆「時の経過によって価値が減少する」とは
土地の場合は、物価の変動によりその価値が上がったり下がったりするものですから、時間の経過とともに必ずその価値が減少するものではありません。
しかし、機械や自動車であれば、購入して使い始めたその瞬間から、たとえ使用頻度が少なくても、その品質は次第に劣化していきます。
このようなことを「時の経過によって価値が減少する」といいます。
◆「使用によって価値が減少する」とは
機械や自動車やパソコンなどのように、使用すればするほどその資産を形成している各部品がどんどん消耗していき、いつか壊れたり、その機能を果たさなくなってしまうことが予想されます。
このようなことを「使用によって価値が減少する」といいます。
使用頻度が高ければ高いほど、その資産の価値は早く減少することになります。
減価償却資産とは
このような資産のうち、使用可能期間が1年以上で、かつ、取得価額が10万円以上のものを「減価償却資産」といいます。
なお、土地は時の経過等によっても価値が下がるものではありませんので、減価償却資産にはなりません。
減価償却費とは?
減価償却資産の取得にかかった金額は、取得した時に全額必要経費になるのではありません。
たとえば、現金で100万円の減価償却資産を購入したとしても、支払った100万円がその年の必要経費として認められるのではありません。
その減価償却資産の使用可能期間の全期間にわたって分割し、必要経費とされていきます。
つまり、減価償却とは、建物などを購入した時に全額必要経費になるのではなく、その資産の使用可能期間の全期間にわたり分割して必要経費としていくものです。
減価償却の方法には何があるのか
減価償却の方法には、次のものがあります。
・定額法
・定率法
・生産高比例法
・均等償却
所得税などの税法では、資産の種類ごとに償却方法が決められています。(「法定償却方法」といいます。)
法定償却方法と異なる償却方法を選択したい場合には、届出が必要です。
ただし、建物など資産の種類によっては、選択が認められないものもあります。
定率法の計算
◆定率法の減価償却費の計算(200%定率法)
定率法の場合の減価償却費は、次のように計算します。
2度にわたる税制改正によって、定率法の計算方法はかなり複雑になっています。
現在(平成24年4月1日以降取得)の計算方法を「200%定率法」ともいいます。
平成19年3月31日以前に取得した場合の計算方法を「旧定率法」と呼び、平成19年4月1日以降平成24年3月31日以前に取得した場合の計算方法を「250%定率法」と呼んで区別しています。
・期首帳簿価額(未償却残高)×定率法の償却率
ただし、この金額が償却保証額に満たなくなった年分以後は、「改定取得価額×改定償却率」で計算します。
改定取得価額は、この償却計算を開始することになった事業年度における期首帳簿価額を使用します。
◆定率法による減価償却の特徴
定率法による償却費の額の特徴は、初めの年ほど多く、年とともに減少することです。
ただし、定率法の償却率により計算した償却額が「償却保証額」に満たなくなった年分以後は、毎年同額となります。
※償却保証額とは、資産の取得価額に当該資産の耐用年数に応じた保証率を乗じて計算した金額をいいます。
◆定率法による減価償却の計算例
【計算例】(取得価額100万円、耐用年数10年(償却率0.200)、償却保証額65,520円の減価償却資産の場合)
・1年目:1,000,000×0.200=200,000円
・2年目~6年目:(1,000,000-前年までの償却費の合計額)×0.200
・7年目:改定取得価額262,144円×改定償却率0.250=65,536円
※調整前償却額(1,000,000-前年までの償却費の合計額)×0.200=52,429円が、償却保証額65,520円に満たさない場合は、改定取得価額に改定償却率を乗じて償却費の額を計算します。
・8・9年目:改定取得価額262,144円×改定償却率0.250=65,536円
・10年目:期首帳簿価額-1円=65,535円
定額法
◆定額法の減価償却費の計算
定額法の場合の減価償却費は、次のように計算します。
定額法の減価償却費の計算方法も、平成19年4月1日以降取得資産から税制改正によって変わっています。
(平成19年3月31日以前に取得した資産に適用する定額法は「旧定額法」と呼ばれます。)
・取得価額×定額法の償却率
◆定額法による減価償却の特徴
定額法による償却費の額の特徴は、償却費の額が原則として毎年同額となることです。
◆定額法による減価償却の計算例
【計算例】(取得価額100万円、耐用年数10年(償却率0.100))
・1年目:1,000,000×0.100=100,000円
・2年目~9年目:1,000,000×0.100=100,000円
・10年目:期首帳簿価額-1円=99,999円
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建物付属設備・構築物は定額法へ一本化|資本的支出があった場合
資本的支出とは
資本的支出とは、所有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち、その固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額のことをいいます。
資本的支出を行った場合の減価償却は、原則としてその資本的支出を行った減価償却資産と種類及び耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとして、その資本的支出を取得価額として減価償却を行います。
逆に、修理、改良等のために支出した金額でも、その固定資産の価値を高めない場合やその耐久性を増すこととならない場合は、資本的支出にはならず、修繕費(必要経費)となります。
◆資本的支出の例
資本的支出の例としては、次のものがあります。
(1) 建物の避難階段の取付等物理的に付加した部分に係る費用の額
(2) 用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用の額
(3) 機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合のその取替えに要した費用の額のうち通常の取替えの場合にその取替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額
なお、修繕費になるかどうかの判定は修繕費、改良費などの名目によって判断するのではなく、その実質によって判定します。
平成28年3月31日以前に行われた資本的支出の場合
平成19年3月31日以前に取得された建物附属設備・構築物、つまり、旧定額法又は旧定率法が適用されているものに対して資本的支出が行われた場合は、それが平成28年4月1日以後に行われたものであっても、既存の建物附属設備・構築物の取得価額に資本的支出の金額を加算して、一体として旧償却方法で償却計算する特例(法令55条2項)の適用は認められます。
原則どおり、資本的支出について新規資産の取得とみなして定額法を適用することも認められます。
平成28年4月1日以後に行われた資本的支出
既存の建物附属設備・構築物に対して平成28年4月1日以後に行われた資本的支出については、新規資産の取得とみなして償却することが原則となります。
従って、既存の建物附属設備・構築物が定率法適用であっても、それらに対して平成28年4月1日以後に行われた資本的支出については、定額法が適用されます。
まとめ
今回は、平成28年4月1日以降に取得した建物付属設備や構築物の減価償却費の計算方法の税制改正について説明しました。
個人の場合は、平成28年分の所得税確定申告の計算からこの税制改正の影響を受けます。
平成28年に取得した資産について、昨年の決算書を見ながら単純に同じように計算しないよう注意しましょう。
【投稿者:税理士 米津晋次】