政府の税制調査会で所得税を抜本的に見直す動きが出てきています。
配偶者控除の見直しに続いて、基礎控除についても検討されるようです。
そこで今回は、所得税の基礎控除について説明いたします。
目次
所得税の基礎控除とは
所得税基礎控除の概要
基礎控除は、確定申告や年末調整において所得税額の計算をする場合に、総所得金額などから差し引くことができる所得控除の一つです。
基礎控除は、配偶者控除や扶養控除、障害者控除、寡婦控除など、ほかの所得控除のように一定の要件に該当する場合に控除するというものではなく、納税者全員に一律に適用されます。
所得税の基礎控除の金額は38万円になっています。
なお、住民税にも基礎控除があり、その金額は33万円と所得税とは異なっています。
所得税計算のしくみ
所得税額が決まるまでの流れは、次のようになっています。
(1)各所得金額を計算
所得税では、所得をその性格によって10に分けています。
利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得の10種類です。
まず、それぞれの所得区分ごとの所得金額を計算します。
・所得金額=収入-必要経費(または給与所得控除など)
(2)合計所得金額を計算します。
所得区分別の所得金額を合計して、合計所得金額を計算します。
(3)所得控除額を控除して課税所得金額を算出します。
医療費控除や社会保険料控除、配偶者控除、扶養控除、障害者控除などの所得控除額を合計所得金額から控除します。
(4)所得税率をかけて所得税額を算出します。
課税所得金額に所得税率をかけて所得税額を算出します。
・所得税額=(合計所得金額-所得控除額)×所得税率
所得税の基礎控除の趣旨・推移など
所得税基礎控除の趣旨
基礎控除は、納税者本人や納税者の配偶者、扶養親族の最低限の生活を維持するために必要な収入を守る趣旨で、1947年(昭和22年)に創設されました。
所得税をすべての納税者に対して課税することは、経済的格差を和らげるという所得再分配機能に反してしまうため、基礎控除を定めることにより、生存権が守られるようになっています。
つまり、基礎控除は、生存権を規定した憲法25条の規定に合った制度でもあります。
日本全体で平成14年でも、2兆1000億円程度の税負担が軽くなっています。
所得税基礎控除の推移・変遷
所得税の基礎控除額の過去の推移は次のようになっています。
・昭和25年:2.5万円 ・昭和26年:3.8万円 ・昭和27年:5万円
・昭和28年:6万円 ・昭和29年:6.8万円 ・昭和30年:7.5万円
・昭和31年:8万円 ・昭和32年:8.8万円 ・昭和33年~36年:9万円
・昭和37年:9.8万円 ・昭和38年10.8万円 ・昭和39年:11.8万円
・昭和40年:12.8万円 ・昭和41年:13.8万円 ・昭和42年:14.8万円
・昭和43年:15.8万円 ・昭和44年:16.8万円 ・昭和45年:17.8万円
・昭和46年:19.5万円 ・昭和47年:20万円 ・昭和48年:20.8万円
・昭和49年:23.3万円 ・昭和50年:25.6万円 ・昭和51年:26万円
・昭和52年:28.2万円 ・昭和53~58年:29万円 ・昭和59年~63年:33万円
・平成元年~6年:35万円 ・平成7年~現在:38万円
所得税基礎控除額の計算方法
所得税の基礎控除額はどのように計算されたのでしょうか。
基礎控除は、マーケットバスケット方式により計算されてきました。
マーケットバスケット方式は、その名のとおり最低生活に必要な飲食物・衣料・入浴料・理髪代等の品目を一つ一つ積み上げて算出する方法です。
実際の基礎控除額の算定に当たっては、「大蔵省メニュー」という成人男子が健康な身体を維持できる為の献立を基に一年間の食費を算定し、次にエンゲル係数で除して最低生活費を求めていたようです。
そのメニューは、1日2,500カロリーを摂取できるような献立で、春夏秋冬別に作られました。
例えば春の献立は、 朝:ごはん(170g)・京菜のみそ汁・やきちくわのおろしあえ・たくあん、 昼:なっとう・チャーハン・京菜のおひたし・たくあん、 夜:ごはん・いかと野菜のみそに・わかめのすまし汁・たくあん・リンゴとなっていたそうです。
日本の高度成長期は、物価が上昇するように毎年基礎控除額が増額になっています。
しかし、物価が安定すると基礎控除額の増額は少なくなり、現在の38万円は、平成7年から変更されていません。
所得税の基礎控除の改正も検討
配偶者控除に続き基礎控除も見直し
報道によると、政府税制調査会では、専業主婦世帯などの所得税負担を軽くする「配偶者控除」の見直しとともに、全ての納税者に適用される所得税の「基礎控除」について、高所得者ほど減税の効果が大きいとして見直しを検討しているようです。
所得税では、課税対象額を減らした後に、所得額に応じ5~45%の累進税率を掛けて税額を計算しますので、基礎控除によって税率が高い高所得者ほど減税効果が大きくなり、「金持ち優遇」との批判があります。
また、配偶者控除の見直しでは、全ての夫婦世帯に適用する「夫婦控除」への転換が有力なようですが、夫婦控除対象世帯が増えると税収が減少するので基礎控除を見直して埋めようとしているとの見方もあります。
所得税基礎控除の改正案
そこで、現行の所得控除である基礎控除から、納税額から直接一定額を差し引く「税額控除」に転換する案が出ています。
税額控除なら、所得の大小によらず減税額は同じになりますので、「金持ち優遇」にはならなくなります。
また、さらに「金持ち優遇」にならないように、一定以上の年収に対して基礎控除の適用を制限したり、控除を段階的に縮小したりする案もあります。
所得税基礎控除を税額控除にした場合の問題
所得税の基礎控除を、現在の所得控除方式から税額控除方式に転換した場合にも、次のような問題点が考えられます。
(1)納税者の財産権侵害の可能性
税額控除方式では、いわゆる「所得の不可侵領域」がなくなってしまいます。
すべての所得を税額計算の過程に入れることは、財産権を侵害することにつながるとの指摘があります。
(2)担税力の指標
「所得」は、担税力の指標です。
所得税は、この担税力にあわせて課税されています。
基礎的人的控除を所得控除方式とすることで、税率をかける前の「課税所得金額」は、その納税者の担保力を示すこととなっています。
しかし、基礎控除が税額控除方式となると、納税者ごとの人的事情が一切考慮されないこととなります。
(3)住民税の問題
現在、低所得者の所得税率が5%であることが多くなっています。
しかし、平成 19 年度の税制改正により、住民税は一律 10%とされています。
つまり、原状では所得税よりも住民税の方が、低所得者層の生計を圧迫することになっています。
また、現行では所得税と住民税は、税額の基本的な計算体系は同じになっています。
もし、所得税において基礎控除を所得控除から税額控除方式に転換した場合には、住民税の計算体系はどうなるのかという問題が生じます。
さらに、住民税は国民健康保険料の算出の基礎にもなっています。
もし、住民税でも基礎控除を税額控除方式に変更すると、国民健康保険料にも大きく影響することになってしまいます。
まとめ
今回は、所得税の基礎控除について説明いました。
政府の税制調査会では、所得税の抜本的に見直す動きがあります。
これらを理解したうえで、基礎控除はどうあるべきか、という皆様なりの意見も考えていただきたいと思います。
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