2015年より、相続税が大幅増税されました。
具体的には、相続税がかからない非課税枠が、
・5000万円+1000万円×相続人の数から
・3000万円+600万円×相続人の数へと
40%も縮小されたのです。
都市部に自宅を所有するだけで相続税がかかる時代になりました。
相続税対策がますます重要になってきました。
そこで、前回より相続税対策の基本を説明しています。
・相続税対策の基本1-財産を減らす(生前贈与)
・相続税対策の基本3-財産の評価を下げる(土地建物購入+賃貸など)
今回は、「相続税対策の基本2」として、「非課税制度を活用する」をご紹介しましょう。
目次
相続税の基本2=非課税制度を活用する
相続税では、非課税枠のほかに非課税制度があります。・死亡生命保険金のみなし相続財産の非課税
・死亡退職金のみなし相続財産の非課税
・お墓や仏壇の相続財産非課税
などです。
死亡退職金はコントロールできませんが、生命保険金とお墓や仏壇の購入はコントロールが可能です。
この2つの非課税制度があるのに、相続税の申告にうまく活用できていない場合が多いです。
せっかく用意されている非課税制度ですから、それらをうまく活用して少しでも相続税の負担を減らしましょう。
相続税対策は保険金の非課税を活用する
死亡保険金のみなし相続財産の非課税
生命保険会社から受け取った死亡保険金についても、相続税ではみなし財産ということで、相続税の対象になります。ただし、この死亡保険金については、次の非課税枠があります。
・500万円×相続人の数
たとえば、相続人の数が3人なら、死亡保険金の非課税枠は、500万円×3人=1500万円となります。
生命保険会社から受け取った死亡保険金が1000万円なら、
・死亡保険金1000万円<非課税枠1500万円
ですから、この死亡保険金については、相続税がかかりません。
この非課税制度がなぜ設けられているかというと、「相続人の生活の安定」を重視しているからです。
死亡保険金の非課税制度の効果
この死亡保険金の非課税枠を最大限利用することにより、具体的にいくらの相続税の負担を軽減できるかを計算してみましょう。【具体例の想定】
相続人:3名、相続財産:7800万円
死亡保険金の非課税制度を使わない場合
・相続税課税価格:7800万円-基礎控除(3000万円+600万円×3名)=3000万円・相続税額:3000万円×15%-50万円=400万円
死亡保険金の非課税制度を最大限活用した場合
相続税対策として、保険金1500万円の保険に1500万円を一時払いして加入していた。・相続税課税価格:(7800万円-支払い保険料1500万円+死亡保険金1500万円)-基礎控除(3000万円+600万円×3名)-死亡保険金非課税500万円×3名=1500万円
・相続税額:1500万円×15%-50万円=175万円
死亡保険金の非課税制度の活用効果
この事例の場合、相続税対策として保険に加入すると、・相続対策しない場合の相続税400万円-相続対策をした場合の相続税175万円=節税効果225万円
簡単に言えば、相続税率15%の場合、1500万円×15%=225万円の節税になる訳です。
もし相続税率が30%の場合なら、1500万円×30%=450万円の節税効果になります。
このように、死亡保険金の非課税枠を利用すると、相続税額がかなり軽減させることができるのです。
死亡保険金の非課税制度を活用する保険の種類
それでは、相続対策として死亡保険金の非課税制度を活用するには、いつどのような保険に加入すればいいのでしょうか。相続税対策として加入する保険の条件
まず、死亡保険金の非課税制度を活用するのですから、死亡時に保険金が支払われることが最低条件です。次に、契約に関係する人が問題になります。
生命保険では、「契約者」「被保険者」「保険金受取人」を指定します。
・「契約者」というのは、保険料を支払う人です。
・「被保険者」というのは、誰が死亡したら保険金が出るのか、ということです。
・「保険金受取人」は、死亡保険金を誰が受け取るのか、ということです。
この「契約者」「被保険者」「保険金受取人が誰になっているのかが重要です。
死亡保険金の非課税制度が適用されるためには、
・「保険契約者=死亡予定者」
・「被保険者=死亡予定者」
・「保険金の受取人=相続人」
とすることが条件です。
この組み合わせは、絶対に守ってください。
おすすめするのは、「終身保険」
生命保険にもいろいろと種類があります。「定期保険」「養老保険」「終身保険」が主な種類です。
相続税対策を目的とするなら、「終身保険」が一番適しているでしょう。
一生涯に渡り一定の死亡保障が確保できるからです。
「定期保険」や「養老保険」は満期がありますので、一定期間を過ぎてから死亡しても保険金を受取ることができません。
個人がよく加入する、「定期付終身保険」は、一部に一生涯の死亡保障が付くものの、一定期間を過ぎれば死亡による保険金が大きく減ってしまいます。
保険加入も早くしないと加入できない場合も
生命保険の加入には、必ず審査があります。がんなどの病気になると、その後の加入が難しくなります。
加入年齢に制限もあります。
保険会社により加入年齢の限度が異なります。
80歳程度の保険会社が多いようです。
また、加入年齢が低いと保険料が安くなるメリットもあります。
したがって、死亡保険金の非課税制度を利用しようとする場合は、保険に加入できるうちに早く加入することが重要です。
死亡保険金の非課税制度は遺産分割や納税資金の面でもおすすめ
死亡保険金は遺産分割協議の対象外
生命保険は、遺産分割の場面でも活用できます。保険加入時に「保険金受取人」を指定しますから、遺産分割協議で協議する対象にはなりません。
つまり、死亡が発生すれば、保険金受取人がほかの相続人の承認を受けることなく、保険金を受け取ることができるのです。
ただし、相続人のうち特定の人だけが保険金受取人になっていれば、遺産分割協議では当然そのことを考慮することになるでしょう。
死亡保険金は、相続税の納税資金として使える
遺産分割協議で、不動産を取得したとしても、自宅なら売却はしづらいですし、そうでなくても、不動産を現金化するのは大変だからです。不動産を売却すると、仲介手数料などの諸費用がかかりますし、売却益に対して所得税・住民税も課税されます。
もし、不動産だけを遺産分割協議で取得すると、相続税の納税資金に困ってしまうことになります。
それに対し、死亡保険金は必ず現金で受け取ることができます。
したがって、相続税の納税資金として全額が使えることになります。
死亡保険金の非課税制度改正の動き
この記事の投稿日現在、この死亡保険金の非課税制度はまだ存在しています。しかし、会計検査院からは、この相続税の生命保険金の非課税枠について、
「高所得者による相続税節税目的の利用も少なくない」
ということで、制度の趣旨にはずれるのではないとして、非課税制度の縮小について検討されています。
この記事を参考にされる際には、この死亡保険金の非課税制度の最新情報をご確認願います。
相続税対策は、お墓や仏壇の非課税を利用する
お墓や仏壇の非課税制度
原則として、財産のすべては相続税の対象になります。現預金や不動産、有価証券、自動車、書画骨董品、貸付金などは、すべて相続税の対象になっています。
しかし、例外として、相続税の対象にならない財産もあるのです。
その代表が、お墓や仏壇です。
これらの祭祀財産は、換金されるべきものではなく、祖先崇拝の慣習や国民感情、社会政策的な面から、相続税をかけるのは不適当であると考えられているから非課税となっているのです。
お墓や仏壇の非課税制度の活用
したがって、先祖代々のお墓のない方や、仏壇のない方は、生前にこれらを買っておけば相続税を節税することができます。たとえば、生前に100万円の仏壇を購入しておけば、
・相続財産-購入現金100万円+仏壇0円
となって相続税課税価格が100万円減ることになります。
相続税の税率が20%なら、100万円×20%=20万円の相続税軽減の効果になります。
お墓や仏壇の非課税制度の注意点
お墓や仏壇の非課税制度を活用するには、次の注意点があります。生前にお墓や仏壇を購入する
相続税は、死亡時の財産に対して課税されますので、死亡後にお墓や仏壇を購入しても、購入前の財産が相続税の対象になります。つまり、生前にお墓や仏壇を購入しないと、相続税対策の効果はゼロになります。
代金の支払は生前に済ます
相続税は、借金などの負債は、相続税の対象財産から控除されます。つまり、純資産に対して相続税は課税されます。
お墓や仏壇を購入して引き渡しを受けても、まだ代金を支払っていない場合は、未払という負債になります。
しかし、非課税財産に対する負債は、相続税の対象財産から控除してもらえません。
代金を支払っていないのですから、まだ相続財産は減っていません。
そして、お墓や仏壇代の未払は、負債として相続財産から控除されません。
したがって、代金を支払う前に死亡してしまうと、相続税対策の効果がゼロになります。
お墓や仏壇の非課税制度を相続税対策として活用する場合には、その代金を生前に必ず支払っておきましょう。
骨董品としての価値があると課税される
仏壇に純金を多く使ったりして、その仏壇に骨董的価値があって投資の対象となるものは、たとえ仏壇であっても非課税財産には該当しません。これを非課税と認めてしまえば、財産をできるだけ純金に換えてそれをすべて仏壇に使用すれば、相続税の負担を大幅に減らすことが可能になってしまうからです。
ただ、仏壇には、多少は純金が使われることが多いですので、いったいどれだけ純金を使うと、骨董的価値が出るのかは明確ではありません。
実際には、純金の仏壇を日常礼拝のために購入したのか、投資や相続税逃れのために取得したのかを、社会通念に従い判断されることになります。
少なくとも、純金の仏壇が複数あったり、何千万単位の仏像や仏鈴がいくつもあれば、不自然となって、非課税財産としては認められないことになるでしょう。
実際に、税務当局も仏具を使った相続税の節税策には目をつけています。
まとめ
相続税対策の基本2として、今回は相続税の非課税制度の説明をしました。今回説明した相続税の非課税制度は、国がどうぞ活用してください、と言っているようなものです。
この非課税制度を最大限活用して、相続税の軽減を図りましょう。
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【投稿者:税理士 米津晋次】
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