「節税目的の養子も有効」最高裁初判断記事の勘違いに注意

最高裁が「節税目的の養子も有効」と初判断したということで新聞等の一面を飾りました。

これを読んで、「節税目的の養子も相続税では絶対に認められる」と理解した人が多いようです。

そこで今回は、養子による相続税節税対策の説明と、この最高裁の判決によって「節税目的の養子が相続税で100%認められる」と単純にはならない理由を説明いたします。

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目次

相続税節税目的の養子縁組の有効性を争い

税理士等による養子の節税効果を受け入れ養子縁組

2013年に亡くなった被相続人の長男一家(長男・妻・子)と共に被相続人の自宅を訪れた税理士等が、長男の子(孫)を養子とすれば相続税の節税効果がある旨を被相続人に説明しました。

その後、養親を被相続人、養子を長男の子(孫)とする養子縁組の届出がされました。

その結果、被相続人の相続人は、長男、娘2人の3人から、養子(孫)を加えた4人になり、長男一家は遺産の1/2を引き継ぎました。

つまり、養子縁組により、娘2人の法定相続分が各1/3から各1/4へ減ってしまったのです。

娘2人が養子縁組は無効と主張

相続分が減った娘側は、「父親に養子縁組の意思はなかった」として、養子縁組の無効を求めて提訴しました。

一審の東京家庭裁判所は養子縁組は有効と判断

一審の東京家裁は「男性には養子縁組の意思があったと推定される」として長女等の請求を棄却した

東京高裁は養子縁組は無効と判断

二審の東京高裁では,本件養子縁組は、生前に税理士から養子縁組による節税効果の説明を受けていたことなどから、専ら相続税の節税のためにされたものであって、孫との間に真の親子関係をつくる意思はなかった」として、養子縁組は無効と判断していました。

最高裁は、節税目的の養子縁組も無効とは言えないと判断

最高裁判所第三小法廷は、2017年1月31日、節税の動機と縁組の意思は両立するため、節税が主な目的であっても縁組が無効になるとは言えない」との初判断を示しました。

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養子縁組について理解しよう

養子縁組とは

養子縁組とは、実の親子関係にない者、いわゆる血がつながっていない者が、法的に親子関係になることをいいます。

特別養子縁組の場合は、養子と実の父母やその血族との親族関係が終了してしまいますが、一般の養子縁組では、実の親との親子関係も存続します。

養子縁組が成立する主な条件

養子縁組が認められるためには、主に次の条件を満たすことが必要です。

(1)当事者(養親と養子)双方が、養子縁組をする意思があること。

(2)養親が満20歳以上であること。ただし、結婚している場合は、20歳未満でも成年とみなされます。

(3)養子が、養親の尊属または年長者(年上)でないこと。

(4)養子が、養親の嫡出子または養子でないこと。つまり、実の子は養子にできません。

(5)未成年者を養子とするときは、家庭裁判所の許可を得ていること。ただし、自己または配偶者の直系卑属を養子とする場合は不要です。

(6)未成年者を養子とする場合は、配偶者とともに縁組をすること。ただし、配偶者の嫡出子を養子とする場合は、単独で可能です。

(7)養子、養親に配偶者がいる場合は、配偶者の同意があること。

(8)養子が15歳未満の場合は、法定代理人が養子縁組の承諾をすること。

(9)後見人が被後見人を養子とする場合は、家庭裁判所の許可を受けていること。

養子縁組の手続き

養親および養子(養子が15歳未満のときは法定代理人)が、養子の本籍地・養親の本籍地・届出人の所在地のいずれかの市町村役場に届出します。

その届出の際には、次のものが必要です。

・届出書
・戸籍全部事項証明(戸籍謄本)養親と養子のもの
・未成年者または後見人が直系卑属を養子にするときは、家庭裁判所の許可書(自己または配偶者の直系卑属を養子にするときは不要です)
・養親および養子双方の印鑑(養子が15歳未満のときには法定代理人の印鑑)

なお、多くの自治体では、届出書を持参した方の本人確認を行っています。

本人確認ができない場合には、届出があったことを届出の当事者ご本人宛に、後日郵便でお知らせするケースが多いようです。

養子縁組による相続税節税策

相続税のかからない範囲(基礎控除)

次のように計算される基礎控除以下の財産については、相続税はかかりません。

・基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人数

(例)相続人が妻と子2人の場合

・基礎控除額=3000万円+600万円×3人=4800万円

なお、平成26年12月31日までの相続については、基礎控除額は次のようでした。

・基礎控除額=5000万円+1000万円×法定相続人数

同じ例で計算すると

・基礎控除額=5000万円+1000万円×3人=8000万円

何と、税制改正で基礎控除額が40%も減ったことになります。

養子縁組により基礎控除額を増やすことができる

養子縁組をすることにより、法定相続人の数が増えます。

したがって、基礎控除額も増えることになり、その結果、相続税を節税することができます。

上記の例の相続人が妻と子2人の場合

・基礎控除額=3000万円+600万円×3人=4800万円

でしたが、養子縁組を1人することにより、

・基礎控除額=3000万円+600万円×4人=5400万円

と相続税がかからない範囲が600万円拡大するのです。

このように、養子縁組によって基礎控除額を増やして相続税額を減らすのが、養子縁組による相続税節税プランです。

基礎控除が増える養子には制限がある

相続税の基礎控除を計算する場合においては、法定相続人の数に含める被相続人の養子の数は、一定数に制限されています。

養子縁組を多くすればするほど、相続税が少なくなってしまうからです。

◆被相続人に実の子供がいる場合

・基礎控除を計算する際の法定相続人に含める養子は1人まで

◆被相続人に実の子供がいない場合

・基礎控除を計算する際の法定相続人に含める養子は2人まで

養子縁組によりさらに非課税枠を増やすことができる

養子縁組によって法定相続人を増やすことによって、基礎控除額を増やすこと以外にも相続税を減らす効果があります。

◆生命保険金の非課税枠が増える

養子縁組により、「生命保険金の非課税枠が増える」ことがあります。

◆死亡退職金の非課税枠が増える

養子縁組により、「死亡退職金の非課税枠が増える」効果もあります。

◆保険金・死亡退職金の非課税枠の計算にも養子の数の制限がある

基礎控除額を計算する法定相続人の数に含める養子の数には制限がありましたね。

保険金の非課税枠や死亡退職金の非課税枠の計算の際にも、基礎控除額の計算と同様に養子の数の制限が適用されます。

これで節税目的の養子縁組は100%認められる?

この判決について、新聞各社の見出しは「節税目的の養子は有効」といったものになっていますので、これを読むと「養子縁組をすれば、相続税では100%認めれる」ようになったのだと判断してしまいます。

本当にそうでしょうか。

今回の裁判は誰と誰が争ったのか

今回の裁判で争ったのは、養子になった孫(長男の子)側と、養子縁組によって法定相続分が減った娘側です。

これが、納税者と課税庁とが争ったのではありません。

今回の裁判は何を争ったのか

今回の裁判では、養子縁組が民法上有効かどうかが争われたのです。

相続税の計算上、養子縁組が有効かどうかが争われたのではありません。

今回の最高裁の判断

また、今回の最高裁の判決は「節税目的の養子縁組であっても民法上直ちに無効とはいえない」と判示したのであり、「相続税の節税目的でも民法上絶対に有効」としたわけではありません。

今回の判決で節税目的の養子縁組が100%認められる訳ではない

今回の最高裁の判決は、相続税で養子を絶対認めるとはしていない

つまり、今回の最高裁の判決は、養子縁組をすれば、相続税の計算で100%認められる、といったことを言っているのではないのです。

いやな相続税法63条

いくら法律上、養子縁組が有効になったからといっても、相続税法にはいやな規定があります。

相続税法63条には「相続税の負担を不当に軽減させる結果となると認められる場合は、税務署長の判断で養子を算入せずに税額を計算することができる」という定めがあるのです。

まさに「伝家の宝刀」の規定です。

養子縁組が相続税でも認められるには

節税だけを目的として養子縁組を行ったとすると、税務署から租税回避行為とみなされ、上記の規定が適用になる可能性があります。

特に、養子縁組を利用したにもかかわらず遺言で養子には一切相続させない場合や、会ったこともない遠い親戚を養子にした場合などは、節税以外に明らかに理由がないと考えられる可能性が高いです。

養子縁組を相続税で認めてもらうためには、養子縁組することに対して節税以外の目的・理由がなければいけません。

節税以外の目的・理由としては、被相続人に次のような特別な意思があげられます。

・将来、お墓を守ることになる孫に自分の遺産を引き継ぎたい。
・自分の面倒をみてくれた嫁を養女にして遺産を引き継がせることで感謝の気持ちを示したい。

養子縁組にはデメリットがある

遺産分割がまとまりにくい

養子縁組により、法定相続分が変更になります。

養子以外の相続人の法定相続分は、養子縁組がない場合よりも減る場合が多いです。

遺産分割協議による遺産の分割は、法定相続分とは異なっても相続人全員が同意すればそれで成立します。

しかし、法定相続分が大きく影響することでしょう。

いくら養子縁組によって相続税が減ったとしても、自分の相続分が減ってしまうなら、養子縁組は不要だと考える相続人も多いことでしょう。

今回の争いがその典型です。

養子縁組をする際には、このような争いを避けるため、事前にほかの相続人の了解を得ることが大切になります。

一人でも養子縁組の了解を得られない場合には、養子縁組は避けるべきではないでしょうか。

孫が養子になると相続税が20%増える

相続税法には、相続又は遺贈により財産を取得した者が被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の者であるときは、その者に係る相続税額は、その者の相続税額に100分の20に相当する金額を加算する、という規定があります。

養子は、民法上一親等の血族にあたりますので、20%増しにはならないはずですが、平成15年の税制改正で、孫養子は一親等の血族に含めないことになりました。

つまり、孫養子の相続税は、20%割増になることになりました。

この規定により、孫を養子にすることによって、むしろ相続税が増えてしまう可能性もあるのです。

まとめ

新聞各社の見出しの「節税目的の養子は有効」と読めば、多くの人は、「節税目的の養子も相続税では認められる」と解釈してしまいます。

しかし、今回の記事で説明したように、今回の最高裁の判決によって「節税目的の養子も相続税では認められる」ということにはなりません。

そもそも今回の裁判のように、安易な養子は相続争いの原因になってしまいますので、充分注意して実行しましょう。

【投稿者:税理士 米津晋次

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